2007年9月号 1面
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 ゆり籠から墓場まで」は健在か?  

英国高齢者福祉の現状を探る
英国最大のボランティア団体「エイジ・コンサーン」を訪ねて
 今年のナルク海外旅行は、英国とフランスの歴史ある町並みや、美しい自然と文化を堪能すると共に、「ゆりかごから墓場まで」と世界に評判を呼んだイギリスの高齢者福祉の現状を探るのが目的であった。 
サッチャー首相のもとで福祉政策が大きく後退したとされているが、それを確かめるべく英国最大の高齢者ボランティア団体「エイジ・コンサーン」を訪問した。

サッチャーが福祉支出を削減

 英国では第2次世界大戦の後、福祉国家路線が労働党政権によって打ち出され、国営の医療保険制度が確立され、医療が無料で受けられることになった。つまり国家が福祉に責任を持つことになったのである(1940年〜1960年)。
 その後、福祉コストの抑制と在宅ケアを理想とする考え方から社会福祉は大幅に見直されることになった。
 1979年に誕生したサッチャー内閣は、経済の立て直しのため大幅な民営化を進め、福祉部門においても公共部門のサービスコストの削減を図り、1990年にはコミュニティケア法が成立、これによって民間セクターとボランティアセクターがサービス提供の主体となり、公共セクターがオーガナイザー役を務めるというパートナー型福祉の時代に入った。
[註・コミュニティケアとは高齢者や障害者が可能な限り自宅及び地域の中の家庭的環境の中で過ごせるようにするのに必要なケア]
 また、このコミュニティケア法はケアプランの作成など地方公共団体がやるべきことを明確に義務づけており、政権の移動に関わらず国民のコンセンサスがあることが素晴らしい。そして1991年に制定された市民憲章で「安くて良質なサービスの提供」を公共団体に義務づけている。 
しかし現在の英国は高齢化、高失業率、離婚の増加、福祉経費の増大、国立病院の老朽化などに悩まされており、様々な改革を模索中なのが現状である。

エイジコンサーンとは
 現在英国には約50万のボランティア団体があり、うち半分の25万団体がチャリティー団体に属し、政治的に独立した内務省管轄下のチャリティー委員会に登録されている。ここが「ゆり籠から墓場まで」と高く評価された英国の福祉を新たに支える役割を担っている。
 ボランティア団体の総支出は2兆6800億円に上り、その収入は中央及び地方政府(34%),個人及び献金(41%)、サービス提供などによる自団体に活動による収入(24%)、その他となっており、まさに国の制度としてのボランティアがしっかりと根を下ろしているのである。
 その中で特に大きく英国全土で活発に活動しているのが、エイジコンサーン(Age Consern)である。
 1940年に設立されたときは全国高齢者福祉協議会と称していたが、1971年にエイジコンサーン・イングランドと改称した。1994年現在、支部1430、デイセンター2650、有給職員4800人、無給奉仕ボランティア25万人の大組織で運営している。     (図T参照) また財政は図Uのように寄付金と政府からの補助金が大半を占めている。

ウエストミンスター支部訪問
 ロンドンの中心にあるウエストミンスター区に、エイジコンサーンの支部を訪ねた。
 事務所には40人以上の人に説明するスペースが無いということで、なんとロンドン大学の教室を借りて、3人の責任者(有給職員)が説明をしてくれた。
 「エイジ・コンサーンは、英国の伝統とニーズに合わせて活動している組織です。英国はイングランド、スコットランド、北アイルランド、ウエールスの4つの王国の共同体ですが、夫々が価値観、歴史など大きく違っています。各支部が夫々独自の運営を行っており、資金面、活動面の格差は大きいのです。
 ロンドンにはそれぞれの区に支部がありますが、ウエストミンスター支部は1947年に発足し、今年で60周年になります。活動の3分の2は地方自治体との関わりのある仕事、残りの3分の1の活動は寄付金や収益事業からの収益で運営しています。
 スタッフは45名、ボランティアは290名以上、年2万7千時間活動を行っています。
 ボランティアの採用に当たっては,身元保証制度、犯罪歴等の調査を行っています。ボランティアは週1回程度の人が大半です。
 高齢者の課題は,孤独、低収入などです。
 国の医療・社会福祉部門と連携して、問題の発生防止や健康面の対策によって、アクティブライフができるような支援をして鬱にならぬように心がけています」、とのことだった。

デイケアセンターとクラブを訪問
 講義のあと、ウエストミンスター支部に属するデイケアセンターとクラブを訪ねた。 ケアセンターは65歳以上のやや弱い人が対象で1日定員35名、現在87名が登録されている。私達が訪問した時は体操をしたりゲームをしたりしていたが、暗い雰囲気は全然感じられなかった。私達は一人一人に声をかけ、最後に日本の唱歌「ふるさと」合唱したが大変喜ばれた。
・続いて元気な高齢者が楽しみながら学び運動する「クラブ」を訪問した。
 そこでは皆さんと一緒に食事をしながら話し合った。私たちのテーブルには80歳の元気な婦人を含め3人の方が話をしてくださった。皆さんとても元気でこの施設に毎週2、3回朝から午後まで来て楽しんでおられる。お一人は60歳の時から来ているが、楽しくて年をとらないとおっしゃっていた。
 昨年、日本では介護保険法の改正で介護予防が導入されたばかりだが、この考えが20年以上も前からしっかりと当然のように行われていたのは驚き。
 食事は英国の代表的なメニュー、フライアンドチップス、それ迄の食事のうちで最高との声がナルクの一行から上がった。ここではパソコン練習、絵描き、ストレッチ体操などが指導され皆さんは楽しく過ごしている。
 施設のスタッフは所長一人と少数のボランティアで、来所者で作る委員会のメンバーが自主的に運営を進めている。予算の獲得にはやはり苦労しているとのこと。

英米2大高齢者組織を目標に
 アメリカでは全米退職者協会(AARP)が最大のNPOであり、会員数3500万人、支部の数は4000といわれている。
 ここは高齢者の生活を守り、福祉の向上について政策提言を行い、それを実現させる強い力を持っている。また会員向けのすぐれた共済事業を行っている。AARPについてはナルクとして研究調査し、ツアーを2回も出して接触を図ってきた。
 一方イギリスのエージコンサーンについては、大阪で行われた日本の設立準備会に会長以下数名が出席し、はじめてその存在を知り今回の訪問となった。訪問の結果、高齢者福祉に取り組んでいる最大の団体であることも理解できた。また無償ボランティアがその活動の中心勢力になっているのも注目点である。政府や地方自治体からの財政支援(本部支部とも)が大きく、今後もっと接触して内容を詳しく調べ、でき得れば提携したい。そしてアメリカのAARP、イギリスのエージコンサーンと並んで、「日本のナルク」と呼ばれるようになりたいものである。  
                                         (野村文夫) 

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