2007年1月 1面
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              人口激減時代の光明   
        医療費節約日本一の茅野市を訪ねて
                           NPO法人ナルク会長  高畑 敬一

 
2年前から日本の人口が減少し始めました。このまま出生率が回復しなければ2050年にはピーク時1億2600万人余りから8833万人余りまで、丁度戦後の1950年の水準にまで落ち込んでしまいます。(図1参照)それだけでなく、問題は65歳以上の老年人口が戦後の頃には5%に過ぎなかったのに、2050年には38・9%と世界最大の超高齢国になってしまい、対照的に14歳以下の年少人口が35・8%から8、8%と極小になります。(図2参照)当然働き手となる生産人口が激減して、経済が不活発になり、健康保険や介護保険、年金の制度維持が困難という大問題を抱えるのです。
 偉大な経済学者だったドラッガーさんは、かねてからこのことを心配され「日本は今、明治維新や敗戦後に匹敵する大変革期に直面している。変革の三大課題の一つは少子高齢化である。日本の伝統である人と人の絆を大切にしながら、世界に目を開いて、変革を待つのではなく担い手になってほしい」と激励されていました。
 政府は児童手当の増額、育児と就労の両立等、少子化対策に本腰を入れ出しましたが、財源の壁があって期待した以上に進んでいません。ナルクが*年*月の会報で調査報告した「出生率日本一の2.5を誇る鹿児島県和泊町に見習う」ことを、改めて年頭に当たり提言いたします。要点は次の三点につきます。
 @子供は「和泊町みんなの子供」を合い言葉に近所の人も町のどこでも子供を預かってもらえ、見守ってもらえる。
 A保育所が多く、夜の7時まで預かってくれ、月2万円と安い。
 B2人以上の子供を育てることが楽しい。

医療費が全国最小
 高齢者の医療費増加によって健保の財政が著しく圧迫され、近年、本人と家族の患者負担が3割へと引き上げられました。さらに、かつては無料であった高齢者の負担も1割から2割に、現役並みの年収の人は3割に引き上げられようとしています。高齢者の人口割合が20%の今日でさえこんな状態ですから、30%を超える2025年にはどうなることでしょう。 そんな心配をしているときに、NHKテレビの報道番組で「老人医療費が日本一少ない茅野市」を知り、昨年ナルク「信州・まつもとだいら」で行われた「中国残留孤児帰国者の支援交流稲刈り祭り」に参加する途次、市役所に立ち寄りました。
 永年担当されてきた健康福祉課の伊藤美恵さんから資料をもとに詳しくお話しをうかがいましたが、「ローマは一日にしてならず」、「「市民・民間主導で行政が後押しする公民強固のパートナーシップによる健康まちづくりであるが、それぞれに立派なリーダーが存在していた」茅野市ならではの感を強く持ちました。

諏訪中央病院と今井院長の存在 徹底した予防活動
 「病院は患者が訪れてくるのを待つ所にあらず」と考えた諏訪中央病院の今井澄院長は1975年から保健師と組んで、夜の2時間くまなく地域を歩いて健康教育を行いました。スライドや16ミリ映写機を持ち込み「脳卒中の予防、ガンの早期発見、減塩の大切さ」など、膝をつき合わせて話し合われたのです。
 今井さんは故人となられましたが、今は病院だけでなく開業医も含めて引き継がれ、もう30年。脳卒中の激減や健康な街づくりに大きく貢献されています。

7800人の地区保健補導員とOG 
健康づくりにウォーキングとボランティアが効果

 今井さんとパートナーを組んだ原田文也市長も偉かった。健康教育講座の費用を工面しながら、70世帯に一人の保健補導員計300人とそのOG7500人、120人の食生活改善推進委員を置くという茅野市独特の市民参加態勢のレールが敷かれ、それが現市長にも受け継がれています。
 保健補導員は医師と協力して健康講座を開くほか、各種検診の申し込みと取りまとめ、健康相談、と幅広く活動していますが、最も力を入れているのは「健康づくりのためのウォーキングとボランティア」の普及。そしてそれが図3のように1人当たり医療費は、上段の老人の部も、下段の一般も全国よりはるかに低水準になっています。因みに都道府県で全国一高いのは北海道、最低は長野県です。

就労か ボランティア
 茅野市の伊藤美恵さんは「茅野市は高原野菜、花卉を中心とした農業や地場産業で働く人が50%ぐらいいますし、ボランティアで病院で働く人も多い。年をとっても働くことが健康にプラスになっているようです。働かない人はウォーキングですね。この二つが茅野市医療費節減の大きな力になっています」と締めくくられました。
 ナルクの会員をもっともっと増やし拠点を広げる、またナルクのような組織が全国各地域に続々と生まれる、それが日本の少子高齢化を切り拓く変革の流れになるでしょう。新しい観点に立って今年を出発の年にしたいですね。

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