2008年1月号  1 面

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新春対談

   認知症治療の第1人者 金子満雄
                 VS ナルク会長高畑敬一

  楽しくナルクで活動すれば認知症にならない

 ナルクでは2005年の6月に、日本早期痴呆学会(当時)の理事長を務めておられた金子満雄先生の講演を大阪で実施したが大好評であったため、続いて横浜、千葉など関東地区でも実施した。どの会場も満員の盛況で、参加者からは「目から鱗が落ちました」など、痴呆に対する認識が大きく変わったという声が多数寄せられた。
 近年、認知症の方との接し方や、認知症と物忘れの見分け方、ひいては認知症にならないための予防法について知りたいという声が多くなってきている。
これらの件について新春のひととき、金子先生と
高畑会長に大いに語っていただいた。

高畑 新年おめでとうございます。先生の診察された患者さんの数が昨年で5万人を超えたという話を聞いて驚いております。これは勿論世界一だそうですね。金子満雄先生の経歴
 一九三四年長崎生まれ。長崎医大卒。
 ケニアやアメリカなどで脳外科医とし
 て診療活動に当たられたあと、浜松
 医療センターの開設に参加昭和五七
 年副院長。
 平成一七年日本早期認知症学会
                 理事長 
金子 いやいやお恥ずかしい限りです。まだ道半ばといったところですが。
 いま、欧米も含めて多くの医者が痴呆は治らないものだと決めつけて「もっと悪くならないためにはどうするか」とか「そのための薬は」といったことばかり考えているのが現状です。散歩も体操もせず、体を動かすのが嫌いな人は、いつしか筋肉が衰えるでしょう。そんな人が筋肉隆々になる薬なんかはないのと同じで、認知症というのは頭を活発に使ってこなかったためにおきている病気なんですね。鍛えることで予防が可能なのです。
高畑 足腰を鍛えるのと同じように、頭を常に使って生活することが必要なのですね。
 ナルクには全国で見れば120種類もの同好会や趣味の会があります。そこで友達を作り、自分の趣味を大切にするという生き方は、先生のおっしゃる頭を鍛えることに繋がるのではないでしょうか。
 趣味や友達をもつことは頭を使うのと同じ
金子 おっしゃる通りです。頭を鍛えるといっても難解な哲学の本を読んだり、難しい計算をすることではなく、右脳、特に前頭前野がポイントです。「美しいものに感動する心」「異性にときめきを覚える心」「人にやさしくできる心」それが大切なのです。
 私は前頭前野がどのぐらい働いているかを測定する方法を開発し、早期診断の道を開いたのですが、最近は精密な機械も開発され、貴重な研究結果が出ています。
 それによると、同じ趣味でも模倣を中心とした趣味は、余り前頭前野を刺激しないのですね。
高畑 習字や絵画は、まず模倣から入りますね。あれはダメですか。
金子 それより囲碁のように自分で考えて、相手と競うといったものが良いようです。同じ歌でもカラオケは物まねだからあまり効果がありませんが、コーラスは相手との調和を考えなければならないからいいんですね。トランプ、麻雀、花札、といったゲームも効果的なことが分かってきました。

 痴呆症と認知症は違う
高畑 先生は以前から痴呆症を認知症と言い換えるのに反対されていましたが。
金子 痴呆症というのは「明日どこに行こう」とか「体重が増えたからダイエットをしよう」といった人間の計画性、自発性が衰えてくる病気です。これは脳卒中などの後遺症で起こるのではなく、大半が生活習慣病です。つまり早期治療で回復が可能です。これに対して計算とか記憶、あるいは外部の情報を取り入れる能力が衰えるのを「認知機能障害」といいますが、これは加齢などが原因です。主ぬ遺伝子が原因のアルツハイマーを除き大半は病気ではありません。これを一緒に考える医者や役人が多くて、痴呆症を認知症に置き換えてしまった。これには無理があります。
高畑 「痴呆」という言葉を使わない方がよいという社会風潮もありましたね。
子 痴呆症は病気です。しかも生活習慣病なので、従って早期治療とリハビリで回復が可能です。しかし物忘れは記憶障害なので病気ではありません。そこをはっきり分けなければなりません。趣味と友達、それと人に奉仕する心を持てばボケは防げます。

 息子や孫の教育が大切
高畑 我々の年代は戦争や戦後の貧困の中で育っていますので、趣味どころじゃなかったのですが。
金子 ところが困ったことに我々の子ども世代が経済成長の時代に育っていますので、仕事人間が多いのです。仕事仕事で毎日が明け暮れ、趣味を持たず、お金が全てと思っている息子が多い。こういう感性欠如の人間は結婚するときも学歴がどうだとか財産がどうだとかしか考えませんから、ろくな嫁が来ません。彼らは会社で偉くなってもボケルし、こういう息子、嫁に囲まれている年寄りの痴呆症は治りが悪いのです。軽い痴呆の姑に「お母さん一緒にお買い物にでも行きましょう」と声をかける嫁は、姑の痴呆を治すし自分もぼけません。お年寄りのケア以前に息子や孫の教育の必要を感じています。彼らに人を愛する心、ボランティアの心を教えなければいけませんね。

 ナルクに入って前頭前野を鍛えよう
高畑 いま65歳以上の一人暮らしが増えていますね、それが気になるのですが・・・。
金子 こういう人こそナルクに入って生き甲斐を見つけてもらいたいですね。
高畑 ナルクでボランティアをして、趣味の会で前頭前野を鍛えるのが一番ということですね。
 今日は有り難うございました。

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